癒しの花
2020夏。ばらには「二番花」というものがあることを初めて知った。冬を越え、春に咲くのが一番花。そして、一番花が咲き終わった後、剪定し、4,5週間後に再び咲くのが「二番花」という。この夏、わが家のばらは美しい「二番花」を咲かせた。水やり、消毒、肥料、剪定…いずれも手探りで初めて行ったことがうまくいったのかもしれない。「ばらは難しい」と思い込んでいたが、「難しいと思い込み、何もしなかった。」のがそもそも間違いだったことに気づく。
コロナ禍といわれる今年。いつも以上に花を愛でることが多くなった。世間の様々なイベント中止に伴い、行き場を失った花たちを少しでも救うことができたら、とお花屋さんから素敵なブーケを買い、リビングに飾った。きれいな花々を少しでも長く愛でたくて、毎日花ばさみで茎をチョキチョキと切り、水替えをしては、リアレンジをした。これは「作業」ではなく、「癒し」となった。
室内で切り花たちに癒されると、庭の花々にも目が行く。「水仙の球根から芽が出た」「クリスマスローズのつぼみが膨らんだ」これまであまり気に留めなかった草花の変化を発見することが嬉しくなり、庭に出る時間が増えた。
肥料と消毒とで
わが家の庭には三種類のばらがある。地植えして三年目の「アイスバーグ」、昨秋地植えしたばかりの「レイニーブルー」,鉢植えの「あおい」である。肥料、剪定、消毒などなど、ばらの栽培には手がかかると聞いてはいたが、昨春までは「水やり」が精一杯であった。
「水やり」以外に行ったこと…肥料 晩秋にバラ用の肥料(粒状)を根元に規定量置いた。5月の最終週、今までにないほど美しく、たくさんの花が次々と咲いたのは、肥料の成果と言ってよいだろう。
その前に。忘れてはならない事件があった。ばらの病気である。4月下旬から5月上旬にかけて、「あおい」の茎やつぼみに白い粉がびっしりと付いているのを発見した。「うどんこ病」であった。また、「レイニーブルー」の葉に黒い斑点が…。黄色く変色し、葉が落ちている…。こちらは「黒点病」である。いずれも、ばらの代表的な病気として有名であることを知った。それゆえ、予防剤も治療剤もホームセンターで簡単に入手できる。まずは「治療剤」から、そして「予防剤」とローテーションで使うのがよいらしい。マスク、手袋に加え、防護服がわりの雨合羽(野球の応援用!再利用できてよかった笑)を身に着けて、シュッ、シュッと一心不乱にスプレーし、病に立ち向かう。ああ、そういえば花粉防御用メガネもかけた。このいでたちはかなり珍妙だったろう。しかし、美しい花を咲かせるためには外見など気にしていられない。
病気の治療スプレーと、物理的に白カビを取り除く(柔らかい布で優しく優しくふき取る)作業を経て、「あおい」は5月の下旬、美しい花を咲かせた。同じころ、黒点病で光合成ができないのではないかと心配していた「レイニーブルー」も次々と花開いた。
剪定…YouTubeで学ぶ
ばらの病気の治療と予防に努めて以来、小さな点や小さな虫がついていないか…水やりともに朝晩チェックするようになった。インスタグラムで拝見している美しいばら園に住む素敵な方が「庭パトロール」というハッシュタグを使われているが、今では痛いほどその心持に共感する。ある朝、出勤前にちらりと見たバラのつぼみに小さな穴があった、気がした。そして、虫の糞らしきものが下にポロポロ…。いずれもミリ単位の小さな発見。しかし、仕事に行かねばならない!後ろ髪引かれながら車を走らせたが、一日気になって仕方がなかった。嫌な予感は的中した!柔らかなばらのつぼみを食い荒らす憎き虫の害であった!帰宅後、暗い庭で消毒作業に入る。シュッシュッ…今度は「ばらの害虫」用のスプレーだ。
ばらの病気を検索しているうちに心強い師と出会う。YouTubeの園芸チャンネルだ。(私が登録したのは→「ガーデンちゃんねる」)園芸店のお兄さんが登場し、ばらの鉢を片手に分かりやすい語り口で説明してくれる。チャンネル登録をすると、絶妙なタイミングで「6月のバラの育て方」のアップロード通知が来る!私は熱心な視聴者、兼受講者となり、iPadでYouTubeを再生しつつ、画面の半分でノートアプリを起動し、Applepencilでメモを取っては翌日のばらのお手入れに生かした。おかげで初めての「剪定」にも迷わずに取り組むことができた。花を咲かせるためにだけ出た枝を剪定すること、咲いた枝の半分は「恐れずに思い切って切る」こと!そして、梅雨の間に枝が伸びるためには「根」が育たなくてはならないこと。「根」は重要なのだ。改めてばらが植物であること、植物が育つために必要なことを知った。いや、既に知っていたはずのことに気づいた。遠い昔、「理科」の教科書で、授業で習ったではないか。朝顔やひまわりの観察を通して知っていたことだ。小学生の頃、観察と教科書とを通して得た知識が数十年後に、必要を伴い実生活に生かされる。学びとはこういうものだろう、と私は思う。学んだ瞬間に「使える!」と喜んだ知識ほど賞味期限が短い…ことが多い。
二番花、咲く
毎日の水やりと、病気の予防と治療(治療が優先された)、朝夕のパトロールによる(まずまず)迅速な対応、そして初めて行った剪定作業が功を奏したのだろうか。救いようのないほど暑い8月上旬、ばらは美しい「二番花」を次々と咲かせてくれた。病気を持ちながら咲いた一番花よりも、ずっと健やかに、美しく!
三番花、冬ばらに思う
その後、9月半ばに「三番花」、さらに11月半ばに四番目のつぼみもつけた。「四季咲き」のばら、とはこのような咲き方をする花であったことを知る。これまでも庭を眺めては「あら、秋なのにばらが咲いている!」などと喜び、写真を撮ったりしていたが…、はかなげな花や弱弱しい葉や茎…あれは植物の生きる力と外的条件が一致した偶然の産物だったのだろう。
「ばらの咲く庭でコーヒーを楽しみたい」「自分で育てたばらでブーケを作りたい」…ここ十年来の夢である。でも、ばらは難しいから、時間に余裕ができてから…退職後にでも育てようと考えていた。毎日の水やりや消毒や剪定などという「面倒な作業」は仕事をしている間は無理無理、退職後にでもゆっくりと、と考えていたのだ。しかし!ばらの花の美しさに引き寄せられ、植えてしまった!そして、より美しく咲かせたいなぁと思ううちに、水やり、消毒、剪定も苦ではなく、優先してやりたい日課、習慣になっていった。今年はコロナの影響で残念なこと、失ったことが多い一年であったが、花に癒しを求め、ばらの花咲く姿に深くかかわることができた。結果、自身の夢に大きく近づいた、記念すべき年となった。2021年は、迷える心の救いとしてではなく、日々の営みや移ろう季節のなかでばらを楽しむ、そんな穏やかな一年であってほしい、と心から思う。